わたしの推しは戦艦シャルンホルストです。
大好きな『日本海軍菊花聯合艦隊』の続編、『ザハロフの晩餐』がとうとう発売された!
『ザハロフの晩餐』は発表当時はpixivコミックで読んでいたので、Chapter.5 『Oscar』までしか把握していない。連載されている本誌は近場の書店では販売されていないので、確認することすら出来なかったので、こうして再び、全部、読むことが出来てとても嬉しい。
発表当時は、『日本海軍菊花聯合艦隊』でお馴染みの日米海軍の面々の他、ドイツ海軍やイギリス海軍の艦達が新しく登場したのがとても楽しかった。
特に戦艦シャルンホルストが登場したのでガッツポーズをして喜んだのが思い出深い。艦の外観通りの美しい姿になっているのでとても感動したのだ。著者の牧さんには頭が上がらない。シャルンホルストをこのような美人にして下さり、ありがとうございます。
また全部読めるようになったことで、グナイゼナウもいることが確認出来た。仲が良く、連携もバッチリな姉妹でとても嬉しい。
そしてシャルンホルストの性格がとても好きだ。わたしの中では艦のイメージがだいぶ先行しているので、このシャルンホルストは薄命美人になってしまうのかなと思っていたが、僚艦であるティルピッツを容赦無く呪おうとしたり、
「ブリテンのふねは全滅しろ」
「イギリス艦は嫌いだ」
と吐き捨てたりしている一方で
「ハーミズの意見には共感できるわ……」
と素直に賛成していたりと、芯の強いところがあり、とても好ましい。シャルンホルストが更に好きになった。ありがとうございます。
また、ストーリー展開にも目が離せない。
最初はヴィッカースの思惑通り、企業達が自分達の好きな、思い入れの深い艦を選出し、プレゼンテーションする流れで進むが、猫・オスカーの身体に収まってしまったドイツ艦・ビスマルクの登場により、艦達自身も物語の中心に入っていく。さらに艦達自身により自分達の成り立ちが語られる。そして戦列艦・ビクトリーとザハロフ自身の登場によって、クライマックスへと入っていく。
『擬人化』というジャンルでは様々な物から概念まで、ありとあらゆるモノが人の姿に収められて来たが、軍艦という物を主題とし、軍艦に語らせた、この『ザハロフの晩餐』は〝物語〟の中の〝物語〟と言っても過言では無いと思う。
例えば戦艦フッドは
「戦艦フッドは美しい艦だよ でも軍艦はそれだけで語るほど浅くない」
「人間の愚劣さと残酷さ 喜劇と悲劇の歴史 全てが詰まった薄暗い情熱の結晶」
と語られているし、フッド自身も
「昔こんなフネがいたわ」
「見た目が綺麗だからってロクに改装もしないで紙装甲で敵の新鋭艦に沈められた これは侮辱よ 人の傲慢よ ぶん殴ってやりたい」
と自分のことを語っている。人が自身の過信と傲慢ゆえに言えないことが、物語の主題である美しさという〝魅力〟をもった艦である戦艦フッドによって語られる。
そしてザハロフ自身の語りも見逃せない。
「燦然と輝く戦果を残した艦は圧倒的な存在感を歴史に残す」
「数多くの人間の情熱と夢で造られて」
「数多くの人間の命を奪ったからだろう」
「代償は記憶に比例する」
「兵器は疎まれながら輝いていく」
この艦への愛が詰まった漫画の中で、この語りは鈍く、煌々と輝いていると思う。そして確信するのだ、この漫画は物の語りと人の語り、それらの競演が素晴らしいのだ、と。
その競演はクライマックスへと続いていき、最終的にはヴィッカースとザハロフの日記を巡る争いの如きやりとりに結実している。政府の圧力によって存続していくには先の無くなったヴィッカースは、藁をも掴む思いで、武器商人を辞めて何もかも処分しようと暖炉の火に焚べていたザハロフの元を訪れる。ヴィッカースはザハロフに
「オバケのくせになにができる」
と言われながらも、
「あなたも同じようなものでしょう」
と返す。
わたしは、ヴィッカースは「自分もあなたも同じ穴の狢だ」という意味で言ったと考えている。でもザハロフはきっと、「自分もあなたもオバケのように記憶の塊として、世に影を残して行くのだ」と言われたのだと思ったのだ。
ザハロフはそれを否定し、自分は消えゆく存在だ、何も残すまいと行動、誰の物かも分からない日記をヴィッカースに渡した。
わたしは、これは世界史を政治と権力とカネで動かしてきた人間と、その力の象徴である軍艦の持つ魅力とエモーショナルな感慨と、儚さ、ダイナミズムが結集した作品だと思う。軍艦はただかっこよくて力強く、美しいものではないということを、全力で示している。メインストーリーの他にも、登場人物紹介や各海軍のよもやま話も楽しいギャグが面白い。このような漫画を世に送り出してくださり、ありがとうございました。